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—— 「天保異聞 妖奇士」の舞台は江戸時代の天保14年(1844年)。時代劇の「遠山の金さん(※1)」と同じ時代ですね。この時代を選んだのはなぜでしょうか?
 
會川 天保14年は「最後の江戸時代」なんですね。ひとくちに江戸時代といっても、200年以上が経っているわけで、ずいぶんと建物の様式や美術が変わるんです。たとえば、京都の太秦にある映画村のセットは1600年代の中盤です。一方、現代に残っている絵をベースにさかのぼれる江戸時代というのは天保年間ぐらいがせいいっぱい。だから、今のスタッフで江戸時代を描こうと思ったら、天保年間しかなかった。そういう物理的な理由もあります。同時に、この天保年間は幕末になる前で、江戸幕府がきちんと存在して、藩幕体制もまだほころびがでていない。同時に、海外の情報も入ってきていて、蘭学者が知識を集めている。そういう江戸時代を、これまでの時代劇では見たことのない角度から描いてみたいと思ったんです。
 
—— その時代に「奇士」の人たちはどのような活躍をしているんでしょうか?
 
會川 言うまでもなく歴史上にはない職業です。表向きは「蛮社改所(ばんしゃあらためどころ)」という役所にいるんだけど、それは名前だけで実態がない組織なんです。その裏で「妖夷」と呼ばれる妖怪を退治しているんですね。
 
—— 「妖夷」とはどんな存在なのですか? 当時は外国人のことを「洋夷」と呼んでいたそうですが。
 
會川 異界からやってきた実体のある化け物です。昔から語られていた妖怪や化け物をひとくくりにして、妖夷と呼んでいると考えていてください。いつからいたのか、なぜ現れたのか。それは「天保異聞 妖奇士」の話の中で必要に応じて、語られていくでしょう。
 
—— 主人公・竜導往壓は「漢神」という力で妖夷と戦うそうですが、これはどんな力なのですか。
 
會川 モノにはすべて“名前”があって、その名前にはそれをしめす“漢字”がある。“漢字”には本来の“意味”があって、その“意味”の力を引き出すことが、往壓が持っている力です。往壓の仲間はその力を「漢神=あやがみ」と呼んでいる。だけど、本来、「あやがみ」というんは中国の神様を指す日本語なんですよ。そもそも漢字は中国から日本に輸入されてきた言葉だけど、いまや中国で使っている漢字は変わってしまった。中国の漢字はシンプルになってしまったんですね。むしろ、日本で使われている漢字のほうが古いかたちを保っている。それはすでに別の世界が生まれていると言ってもいいでしょう。それが作品の中のキーワード「異界」というものとつながっているような気がします。
—— さて、この天保14年ごろは、幕府の重要人物である鳥居耀蔵(※2)が「妖怪」というあだなで呼ばれつつ、「天保の改革(※3)」を行っている時代ですね。彼は本編に登場するそうですが、どんな役割なんでしょう。
 
會川 鳥居耀蔵は多くの小説、漫画やテレビドラマに登場する人物ですが、彼の思想については、いろんな意見があるんです。保守的という人もいれば、改革を押しすすめた人物だという人もいる。本編の中での鳥居の立場は、のちのちはっきりしていくでしょうが、個人的には単なる保守的な人であるとは思っていません。妖夷を日本古来のナショナリズムの象徴として、大事にしようとしている……そんな存在になるんじゃないかと思っています。
 
—— そういった歴史上の人物とのドラマも楽しみです。
 
會川 物語は天保14年1月から、天保15年後半、弘化元年ぐらいまでの約二年の中で展開するつもりです。ただ、今回は歴史上の話はあくまで舞台にすぎなくて、その変化する環境の中で、いかに主人公が自分の生き方を貫けるかという話が中心になっていきます。
 
—— 主人公・竜導往壓は大人の男性ですね。
 
會川 たとえば「ルパン三世」や「シティーハンター」(※4)のように、主人公の年齢が関係ないアニメーションを作ってみたかったんです。「土6(※5)」というと、少年少女が成長したり、色恋にいちいち悩むという展開がある作品が多かったんですが、もっと広範囲の人が楽しめるものを目指しています。竜導往壓は大人の世代の主人公ですが、子どもの世代の登場人物と物語の中で出会うことで「大人と子どもの違いとは何だろう」「いつから自分は大人と呼ばれるものになっていけるのだろう」「自分が子どもの頃に憧れていた正しい大人とはどんな存在だったんだろう」という問いかけができたらと思っています。
 
—— 作品の見どころは?
 
會川 もともと今回の原作は「土6」で何をやるかというところから企画したものです。時代劇といっても、宇宙でロボットが動いたり、異世界で錬金術を使ったりするのと、視聴者にとってはあまり変わらない世界だと思います。むしろ、歴史という手がかりがある分、興味を持っていただけるんじゃないでしょうか? 妖夷を倒す、チームアクションドラマに注目しつつ、先入観なく楽しんでいただければ、それが一番です。
 
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※1 遠山の金さん
江戸町奉行・遠山景元(幼名・金四郎)を主人公にした時代劇。遠山景元は天保年間に江戸北町奉行、南町奉行を勤めた人物。
※2 「ルパン三世」や「シティーハンター」
「ルパン三世」は、かの名高き怪盗ルパンの孫を主人公にした痛快アクション。「シティーハンター」は1987年から放映された、スイーパー(始末屋)冴羽獠(さえば りょう)を主人公としたハードボイルドコメディ。どちらも主人公の年齢は不詳。
※3 土6
『機動戦士ガンダムSEED』や『鋼の錬金術師』などの大ヒットアニメを生み出している、TBS系土曜午後6時の毎日放送(MBS)制作によるアニメ番組枠。會川氏は『鋼の錬金術師』のストーリーエディターを務めた。

會川 昇/あいかわしょう 1965年生まれ。脚本家。アニメーション「鋼の錬金術師」「機動戦艦ナデシコ」などで脚本、「南海奇皇」「機巧奇傳ヒヲウ戦記」で、原作/脚本。特撮「轟轟戦隊ボウケンジャー」等にも参加。豊富な知識による、緻密な脚本が人気。



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